大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和53年(ネ)1283号 判決

控訴人らはテイエムアールの法人格を否認するので、まずこの点から検討を進める。

被控訴会社倒産の事実及びテイエムアールが昭和五〇年二月五日に設立されたことは当事者に争いがなく、≪証拠≫を総合すると、

1 被控訴会社は、電子部品等の加工・製造・販売を業としていたところ昭和四九年一一月末ごろ倒産し、その後は製品の販売が事実上難しくなったので、その販売を引き受けることを主たる目的とし、それ以外にも同種製品の仕入れ・販売を業とするため設立された会社がテイエムアールであること、したがってテイエムアールは工場を持っていないこと、そして、右倒産した被控訴会社は、一般債権者に対する弁済に供するために、本件和解契約において控訴人旭産業の確認を得た金七六〇万三六四八円の債権を固定資産及び保証金・貸付金返還請求権とともに確保しつつ、規模を縮小してなお加工・製造の業を続けていたこと。

2 テイエムアールの代表取締役には被控訴会社の取締役明野四郎がなり、また被控訴会社の代表取締役板倉敏夫は、テイエムアールの従業員として入社したが実際にはその営業をほとんど任されていたこと。

3 テイエムアールは、昭和五〇年三月初めごろから営業を始めて現在に至っているが、その間にあって、控訴人アサヒ電子に対し、内容証明郵便で売掛代金等を請求したことがあったが、その中には一部被控訴会社の控訴人旭産業に対する手形債権(右1に掲げた一般債権者のために確保した債権とは別口のもの)も含まれていたこと、同じく控訴人アサヒ電子に対し、被控訴会社との間の製品買取りに関する約束の履行を求めたり、これを巡る問題をも含めてテイエムアールと同控訴会社との債権債務の差引勘定を申し出たりしていること、なお、テイエムアールの物品受領書のサイン及び請求書の認印は前記板倉敏夫がしていること、また、テイエムアール発足直後には一部被控訴会社において製品の検収を受けたこともあること。

等の事実を認めることができる。

しかしながら、倒産会社の製品の販売を引き受けることを主たる目的として新会社が設立されたからといって、また両会社間で相互に役員を兼ねる者がいるからといって、当然に新会社の法人格が否認されるものではない。そして、テイエムアールは、右認定のように被控訴会社の製品の販売を引き受けたものであるから、製品の買取方につき前に被控訴会社が取り付けた約束の履行を求める等のことがあっても何ら異とすべきではなく、また、テイエムアールとしての売掛代金の請求の中に一部被控訴会社の債権が含まれているからといって直ちに被控訴会社と同一視されるものでもない。なお、右認定3のその余の点も両会社を実質上同一のものと断ずべき決め手とするに足りないことはいうまでもない。本件のような場合において新会社の法人格が否認されるためには、例えば、倒産会社の財産をそのまま新会社の財産として流用し、もって倒産会社をしてその債権者の責任追及から事実上免れさせるために新会社を設立した等、新会社が、全く形だけの法人格にすぎず、従前の会社の義務履行を回避するため会社制度を濫用して設立されたという事情がなければならない。ところが、本件におけるすべての証拠を総合しても、右1ないし3で認定した程度を超えて、新会社たるテイエムアールの法人格を否認しなければならないほどの右のごとき事情を認めることはできない。

(岡松 田中 賀集)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!